IAMAS卒業制作展

AtsushiNakahara2004-02-29

 内輪の話になりがちだが,卒業製作展で印象に残った「Chair the difference」という作品について記す.この作品は,振動素子をマットリックス上に配置した特殊な椅子を用いて,触覚的な刺激と音響的な刺激を鑑賞者に与えるという作品である.作品の構成としては,わりとオーソドックスな構成であると思う.再生される音響も,池田亮二・カールステンニコライといったポピュラーな作家からの直接的な影響を感じるものであった.
 上記のような作品内容を超えて,非常に興味深いと思ったのは,アートマネジメントの巧みさであった.品質の良い特殊な椅子型再生装置を試作するために,本作品は複数の企業・製作所の支援を受けていたようである.結果,出来上がった装置は,同様の触覚刺激を与える”工学”の研究プロジェクト(たとえばATRのもの)を上回る品質であるように思えた.
 この作品の製作過程は,今後のメディア系学生(工学 or デザイン)のあいまいな職能に,一つの有望な可能性を示すのではないだろうか?そもそもこのような根拠がない・あいまいな熱狂がそう長く続くとは思えない.視覚表現と論理を駆使したあざといプレゼン能力のみが,最後に残る財産ではないかと考えた.